第一章-レコードの歴史

1.1 レコードの歴史についての概略

レコードの歴史は、1877年のエジソンによるフォノグラフの発明から始まった。もちろん、他の研究者の中にも、録音装置について研究していた者は多くいた。しかし、ビジネスについて考えていた点で、エジソンは他の人間を数歩リードしていた。
ところが、エジソンは、最初はこのフォノグラフを音楽の録音用機材としてではなく、基本的に口述の記録と再生、事務用機器として考えていた。彼はこのフォノグラフの使用例として

  1. 手紙の筆記と、あらゆる種類の速記の代替手段
  2. 目の不自由な人のための本
  3. 話し方の教授装置
  4. 音楽の再生
  5. 家族の思い出や遺言の記録
  6. 玩具
  7. 時報
  8. 様々な言語の記録装置
  9. 教師の説明を再生させる教育機器
  10. 電話での会話の記録

を挙げている(吉見俊哉「『声』の資本主義 電話・ラジオ・蓄音機の社会史」講談社、1995、p.78)。

エジソンの作ったフォノグラフは、シリンダー・タイプの録音装置を使っていた。最初は、そのシリンダーの上の錫泊に、引っ掻き傷をつけるようにして音声を記録していたが、その後の技術改良によって、シリンダーに蜜蝋を塗り、その上に傷をつけて録音がなされるようになった。
エジソンのフォノグラフは、録音媒体がシリンダー式の管だった。ところが、1894年、ベルリナーが円盤レコード(SP)のプレスに成功し、この円盤型レコードの使用により、レコードの大量生産が可能となった。そして、この大量生産の可能性が、レコードの商業化を生むこととなった。
媒体の形は、シリンダー・タイプの蝋管から黒いシェラック製レコードへと移っていく。アメリカ・コロムビアは1902年、フランスのパテ・フレールは1906年、エジソン・ベルは1913年にレコードの生産を始めた。
ディスク・タイプとシリンダー・タイプの間には、大量生産が可能かどうか、ということの他に、録音時間に関しても違いがあった。ディスク・タイプのレコードは、4分間の音声の記録が可能であり、そのため、都会の大消費市場に対して使用された。一方シリンダー・タイプのレコードは、2分間の録音しかできなく、地方の小規模マーケットに向けて使用された。しかし、このことが地方の才能を発掘することとなり、それが後のレイス・ミュージックへとつながっていった。

1912年、不況が訪れ、レコードと蓄音機の売り上げが下がった。しかし、1913年にダンス・ミュージックが流行し、この不況を救うことになった。
1923年には雑誌「グラモフォン」が創刊され、そしてこのことは、当時にはもうレコード産業がある程度の地位を確立したことを示している。しかし、録音、再生はいまだにアコースティックのままで、音質もあまり良くなかった。
ところが、1924年頃に、ラジオの広がりの影響もあり、音楽の録音がマイクを使って行われるようになった。これにより、バランスのとれた録音、音質の向上が可能となり、その後、再生にも電気技術が用いられるようになる。
1929年、アメリカでは大恐慌が吹き荒れた。そして、この大恐慌が、娯楽産業に大きな被害をもたらした。
レコードの売り上げは、1927年には1億枚あったのが、1932年には2700万枚に落ち込んでいる。また、レコード会社においても、レコード部門が売却されたり、レコード会社自体が吸収、合併されたりした。他にもクラシック音楽の分野では、会社経営の悪化により、著名な音楽家と契約の更新ができず、クラシック音楽の分野が放置されたりした。しかし、このクラシック放置により、逆に若者向けのダンス・ミュージックが流行し、それが不況のダメージの回復につながった。
その後も、技術の発展の影響も受けレコードの売り上げは伸び、戦後には好景気の影響でレコードの売り上げは更に増加した。1946年には2億7500万枚、1947年には4億枚の売り上げを記録した。そして、1948年、コロムビアがLPレコードを開発し、記録時間が飛躍的に伸びたのである。その後も、レコードは多くの数を売り上げ、音楽に溢れた現代を生み出した。

1.2 レコードがもたらした社会的影響

音声を記録できる新しいメディア、レコードは、社会的にも大きな影響を与えた。
まず第一に、レコードの出現により、音楽が聞かれる場所が変化した。19世紀より以前においては、音楽を聞く場合はコンサート・ホールにでかけて、オーケストラの演奏を聞くのが普通であった。しかし、レコードは、そのレコードと蓄音機があれば場所を問わず音楽を聞くことができる、例えば自分の家にいながらにして有名音楽家の音楽を聞く、ということを可能にした。
また、20世紀初期に、若者の間でダンスが娯楽として流行したことが挙げられる。当時でもダンス・ホールは存在していたが、レコードにより、どこでもダンス・ホールにすることが可能になった。
20世紀に入り、エンタテインメントが19世紀以前と変化してきた。エンタテインメントが、家の中に入り込んできたのである。(John Baxendale “‘…into another kind of life in which anything might happen…’Popular music and late modernity,1910-1930″(Popular Music,14/2,1995),p.140)
その他にも、経済の世界に対する影響が挙げられる。レコードの出現により、新しいビジネスが誕生した。レコードを制作するためにレコード会社が創設され、そのレコードの売り上げに対する印税という考え方も生まれた。また、制作されたレコードを、全米中に配送するための流通機構も、整備されただろう。
更に、レコードにより、各地の文化が、他の地域に容易に拡大するようになった。例として、アメリカ全土に渡るジャズの普及が挙げられる。20世紀初めの黒人の移動が各地に黒人音楽を広げる役割を果たしたが、それと共に、レコードの普及によっても、ジャズは黒人や白人の演奏者の間へ普及していったのである。(Irving L. Sablosky “American Music”(THE UNIVERSITY OF CHICAGO PRESS,1969),p.145)

1.3 ラジオがもたらした影響

20世紀において、レコードは重要なメディアの一つである。しかし、レコードと同時代に同じように発展した、重要なメディアがあった。ラジオである。そして、そのラジオも、ただ情報を伝えるということだけではなく、音楽に対して大きな影響力を持っていた。
ラジオの歴史は、1895年イタリア人のグリエルモ・マルコニーニが、無線によるメッセージ送受信を実用化したことに始まる。当時の人々は、この無線メディアの発展に対して、様々な構想を持ち試行錯誤していた。例えば、マルコニーニらは船舶への遠隔通信に役立つと考え、軍部の人間は戦時の非常手段として、電話事業者たちは有線電信、有線電話の延長として捉えていた。彼らの考えには、現在のラジオ放送のように使うというアイデアはほとんどみられない。
ラジオ放送の初期においては、アマチュアの愛好家が開設したラジオ放送局がいくつも存在し、そこでは音楽が流されていた。そして、このことが、アメリカでの音楽の聴取の拡大につながった。
1920年代、アメリカでラジオ放送サービスが開始された。そして、1930年代にはラジオの大衆化が進み、娯楽の道具となり、中産階級から普及が始まった。
徐々にラジオが拡大していく過程で、ラジオ放送で放送されたレコードが、それを聞いていた人たちにどんどん買われていった。ラジオと音楽が、相互に補完し合っていたのである。また、ダンスが流行していた時期においては、ラジオでもダンス音楽が流された。(Irving L. Sablosky “American Music”,p.144)人々に情報を与えるだけではなく、娯楽としての音楽を広げることも、ラジオの重要な機能の一つであった。(注:ラジオでの音楽放送が、レコードの売り上げ減を招いた。それを救ったのがダンス音楽と、レイス・ミュージックである。)

目次

序 1 レコードの歴史 1.1 レコードの歴史についての概略 1.2 レコードがもたらした社会的影響 1.3 ラジオがもたらした影響 2 ブルースにおけるレコード 2.1 ブルースの特徴 2.2 ブルースの歴史 2.3 ...

現在、我々の周囲は多くの音楽で溢れている。その中で、もっともよく聞かれているのが、いわゆるロック、ポップスと呼ばれるものであろう。 このロックという音楽は、1950年代から歴史に登場した新しい音楽である。そして、この音楽...

第一章-レコードの歴史

1.1 レコードの歴史についての概略 レコードの歴史は、1877年のエジソンによるフォノグラフの発明から始まった。もちろん、他の研究者の中にも、録音装置について研究していた者は多くいた。しかし、ビジネスについて考えていた...

第二章-ブルースにおけるレコード

2 ブルースにおけるレコード 2.1 ブルースの特徴 序章で述べたように、ブルースは黒人の心の歌である、と簡単に定義づけることはできない。しかし、多くのブルースには、いくつかの共通点がある。そのような共通点を論ずることで...

第三章-ゴスペルにおけるレコード

3 ゴスペルにおけるレコード 3.1 ゴスペルの特徴 第二章と同様に、まずゴスペルとはどういう音楽であるか、ということに関して論じてみたい。 既に序章で述べたように、ゴスペルという言葉は、福音という意味を持つ。このことか...

第四章-黒人音楽から白人音楽への転化

4 黒人音楽から白人音楽への転化 4.1 アメリカ社会の動き 黒人音楽は、1950年代から60年代にかけて拡大を始めた。そして、その舞台となったのは、アメリカである。黒人音楽の具体的な論に入る前に、1950年代から60年...

第五章-まとめとして

5 まとめとして 今世紀に大きく発展した音楽産業。ロック、ポップスは、その発展に大きく関与してきた。そして、ロック、ポップスの基礎となったのが、ブルース、ゴスペルといった黒人音楽である。 しかし、20世紀の初めに誕生した...

参考文献

参考文献 David Crawford”Gospel Songs in Court:From Rural Music to Urban Industory in the 1950s”,Journa...

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