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二階堂尚「欲望という名の音楽」

二階堂尚「欲望という名の音楽」を読了。音楽誌だけでなく、新聞や雑誌でも好評だったので、購入し読んでみた。

副題の『狂気と騒乱の世紀が生んだジャズ』からわかるように、ジャズが生まれたときの社会情勢について書かれているのだが、音楽理論の解説や、有名な歌手の紹介、ディスクガイドといった要素は一切ない。麻薬や暴力、性といったアンダーグラウンドが、どのようにジャズに影響を及ぼしたのか、について書かれている。

本書は、全六章で構成されているが、主に日本とアメリカの状況について触れられている。また、日本については第二次世界大戦後、アメリカについては第二次大戦前がメインとなっている。

ジャズがいつ誕生したのか、きちんとした日付はわからないが、20世紀に入り、クラシック音楽と黒人音楽が融合してできたのは間違いない。そして、1920年代のアメリカでは、酒場などで演奏されることが多かった。となると、マフィアやギャングと関係するのは避けられない。また、チャーリー・パーカーに代表されるように、初期の頃から、ジャズと麻薬の関係は切り離せない。

そういった状況について、この書籍ではいろいろな角度から掘り下げているのだが、その中で、個人的に意外だったのは、マフィアがある程度自由に演奏させていたという部分だ。書籍では、社会的には下の立場にあるイタリア移民(マフィア)が黒人にシンパシーを感じていたためと書かれている。

また、日本の初期ジャズについて、この書籍では一章が割かれているが、個人的に知らないことだらけであった。ジャズプレイヤーとして初めて聞いた名前も多かったし、渡辺貞夫や秋吉敏子といった今でもジャズプレイヤーとして知られている人だけでなく、ハナ肇や植木等といった芸能関連で語られる人が、どのように日本のジャズに関係しているかが書かれている。レコードコレクターズの小川真一さんのレビューでは第六章が興味深いと書かれていたが、個人的には、第一章や第三章で書かれている日本のジャズについての内容が、面白く勉強になった。

この他にも、マフィアとの関連やユダヤ人と黒人との関係についても書かれているが、本書を読んで一番感じたのは、当時の熱気である。もちろん、麻薬など違法な事も多くあり、すべてをいいとは言えないのだが、退廃や猥雑から生まれる熱情を、自分も感じてみたかった。

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音楽と暴力の関係について、アメリカの例としてはマフィアとの関係が書かれているが、日本の例としては、美空ひばりとヤクザの関係について書かれている。

実際にどのような形で関係していたのかは、この書籍を見てもらうとして、ここでは美空ひばりの歌唱力について一言。

以前、彼女の歌唱力のすごさについて、とあることを聞いたことがある。又聞きになるが、信頼できる人の話だったので、嘘ではないと思う。

最近は見なくなったが、昔の邦画では、歌を出している俳優が出演している場合、劇中でその俳優が歌う場面があった。撮影では、何回か演技を行うので、その度に歌い直すのだけれど、やはり歌い方は変わってしまう。そのため、最終的には別に録音しておいた音源を使う。
ただ、美空ひばりだけは、何度撮影を行ったとしても、同じ歌唱だったそうだ。

もう一つ、美空ひばりについて。彼女の父親が楽器を買いそろえ、結成されたアマチュア楽団で初めて歌ったのは1945年で、亡くなったのは1989年。
彼女の『美空ひばり』としての人生は、昭和の戦後史と同じといってもいいと思っている。

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音楽関連のディストリビューション、Webディレクターとして働いてきました。最近は、もっとコーディングしたいなあと思っております。